『シティガール、自然ガールに目覚める?!』
立教大学 観光学部交流文化学科 2年
新居 莉奈
「ぎゃっ!」目の前に小さな虫の集団が目の前に現れ、思わず出た私の全然可愛くない叫び声が木々の中に吸い込まれていった。これだから森とか山とかは___。もう心の中で何回繰り返したか分からない。ただ、少しずつ水のシャラシャラと流れる音が近づいてきて思わず足を早める私が向かっているのは、新座市にある妙音沢である。遡ること、1ヶ月前。大学の課題で、新座の好きなところを紹介せよと言われた。しかし通い始めて丸一年、本当に通学で新座の駅を使うだけの私には全く思い浮かばなかった。慌てて、何かいい場所はないかと新座市のパンフレットを調べ、おしゃれな古民家風のカフェや写真を見るだけでサクサク感が伝わってきてしまうカレーパンという手強い誘惑をなんとか断ち切ってこの「妙音沢」を発見したのだ。自然スポットに疎い私はとりあえず「平成の名水百選」という文字を見て妙音沢に決めた。さて、お分かり頂けただろうか…。そう、私は山とか川とかそういった自然のものに全く関心がない。自然に癒しを求めてキャンプに行く人の気が知れないし、私なら表参道で好きなブランドの服を見たり綺麗なレストランで美味しいご飯を食べる方がずっと癒されるのになと思っている。つまりこの課題がなければ、妙音沢は私にとって無縁の場所だったかもしれない、そんなことを考えながら新座駅から、いつもとは違うバスに15分ほど揺られていたのだ。住宅街のすぐ横にふと、「平成の名水百選 妙音沢」の看板が現れる。ここから?というような狭い道が木々の中に敷かれ下の方へと伸びている。少しとなりのトトロの世界観のように神秘的でどこか異世界に繋がってしまいそうな小道に一瞬怯みながらも、耳をすませばうっすらと聞こえる水の流れる音に手を引かれるかのように私は進んでいった。普段全く運動をしない私には中々厳しい小道を5分ほど下るとあのパンフレットで見たような木道に繋がった。そしてさっきは微かだった水の音が今では至る所から聞こえてきた。音を頼りに歩くと石と石の隙間からチョロチョロと水が湧き出ているのが見えた。心なしか普段飲む水よりもずっと透明に見える水流を辿ると段々と水たまり程度の大きさになり、小さな川となり、最後は大きな黒目川に合流していった。水が通る道には至る所に石と石のその小さな隙間から一生懸命背を伸ばそうとする緑があり、水をふんだんに浴び青々とした葉からは何か強い生気を感じた。自然に癒されるとはこういうことか、とようやく理解される。都会の華やかさも賑やかさも刺激もない、ただ水が流れる音と緑に囲まれるもしかしたら少しもの寂しいかもしれないけれど、その静けさにはどこか、別に喋らなくともただ隣にいてくれるだけで安心できる親友のような、包み込んでくれる暖かさがある。シティガールど真ん中の私が言うのだからこの妙音沢の魅力に間違いはない。そしてご覧のとおり、妙音沢のおかげで分かりやすく嫌いだったはずの自然に私は魅了されている。平成の名水百選に選ばれるのも納得の何とも神秘的かつ穏やかな妙音沢はもうすっかり私の好きな新座ランキング第1位に鎮座していた。帰り道、普段ならあるはずのない木々や水流を写した写真達を眺めながら、やっぱりトトロというよりはあの石に森の精霊達が座ってそうだからもののけ姫かな、などと妄想している自分の変わりぶりにふと我にかえり、思わずクスッと笑ってしまった。一生来ることはないと思っていたシティガールから自然ガールへ転身する日もそう遠くはないかも知れない。