『君の口は固いか?』
立教大学現代心理学部映像身体学科 2年
森下 心晴
音がした。木々が風になびく音だ。だが、ただの葉の音ではない。それは、まるで大自然の中の草原に立っているような感覚だった。
北野三丁目憩いの森は、新座市にある保全協定緑地で、志木駅近くにある新座志木中央総合病院の奥にある。この地は、閑静な住宅に周囲を囲まれている。唯一、憩いの森と面している歩道はとても狭く、車もほとんど通らない。また、周囲には飲食店などもないため、人通りも少なく、静かすぎるほどに音が聞こえず、人の気配を感じない。しかし、そんな無音をかき消すように、木々による音のアンサンブルが奏でられる。さらに、車通りや人通りのない空間なことも相まって、とにかく葉の香りが強く感じられ、また空気の感覚も少し異なる。人のにおいや人工的な車などの匂い、飲食店の食べ物の匂いが一切しないのだ。そのため、自然の葉の香りだけを楽しむことができる。
この土地は非常に狭い。五月下旬、私はこの憩いの森を目指して住宅街を歩いていたが、この地がどこにあるのか全く分からなかった。自然に溢れ、背の高い木々が生い茂っている空間にも関わらず、そこにやっとの思いでたどり着くまで、分からなかったのだ。それほどまでに、住宅街に自然が溶け込んでいた。だが、少しその土地に近づくと、すぐに違和感に気付く。音がする。景色に変化はない。相も変わらず、一軒家やマンションしか視界に映らない。それにも関わらず、音だけがフッと変わった。気付いて足早に一歩を踏み出すと…。
憩いの森は、土地のほとんどが木と草原に囲まれて、敷地内に入るには草原の間に細く引かれた道を通るしか方法がない。それほどまでに地面にも自然が溢れていて、まるでその道が葉で出来たカーペットのように見えた。さらに驚いたことがある。草原の中に生えている木の幹に、何か得体の知れないものが付いているではないか!恐る恐る観察すると、それはなんとキノコだった!未だかつて、住宅街の中に発生しているキノコに出会ったことがあろうか。なんとも言えない衝撃である。
たどり着くまでの道のりや、実際に見た憩いの森の自然に対する驚きは、まるで冒険を経て未開の島にたどり着いたような、新鮮さや達成感があった。住宅街の中に佇む自然空間は、どこか異質にも感じる。だが、その葉の音色と香りは、人々を不思議な感覚へと誘う。まさに、憩いの森の名に恥じない、やすらぎの空間だった。
この自然を多くの人に見てほしいと思うと同時に、心に秘めたいとも感じた。この地は人が踏み入るには神聖な空間すぎる。住宅街に残る唯一の壮大な自然を維持するためにも、ここは知る人ぞ知る特別な森にしよう。
この秘境は、これを読んだあなたと私だけの…秘密にしておこうではないか。