『束の間のコラボレーション』

立教大学観光学部交流文化学科 4年
粂田 優衣

 

 午後5時。聞き馴れたメロディーと共に授業が終わる。帰宅だ。新座駅へ向かうバス待ちの列に並びながら、ふと空を見上げる。「今日も”アレ”が見られそうだな。」やっと家に帰れるという嬉しさと”アレ”への期待感から、バスに乗り込む私の足は心なしかすこしはずんでいた。午後5時30分。新座駅に到着。「新座駅のホーム」。それが新座市で私の1番好きな場所である。改札を通り、やや急ぎ足で階段を登る。ホームに到着し、期待感に満たされた私の目の前に広がっていたのは、思わず息をのむほどに美しくオレンジ色に染まった夕焼け空だ。4限まで授業ありそしてとても天気が良い日。こんな日は太陽が地平線に沈むまでの限られた短い時間の間に、ホームからこんな幻想的な景色を見ることができるのだ。この時間の新座駅は、通勤客や学生の帰宅ラッシュが始まる少し前の比較的静かな時間。ホームに立つと、柔らかな風が頬を撫で、周囲の木々のさざめきが耳に心地よい。空を見上げると、今にも沈みそうな夕日が西の空に大きく輝いている。地平線から目線を上に向けるとオレンジ、黄色、ピンク、紫、青と綺麗なグラデーションが、空というキャンパスに描かれていた。遠くから「ガタンゴトン」と大きな音を鳴らしながらホームに滑り込んでくる列車は、銀色にオレンジのラインが特徴的な武蔵野線だ。夕日の光が車体に反射し、キラキラと輝く。まるでこの夕焼け空のためにデザインされたのではないかとさえ疑ってしまうほどの抜群なコラボレーションを、列車と空が披露している。列車から降りる人々も、ふと立ち止まり、そのつかの間のコラボレーションに見とれている。誰もが一瞬のうちに、心を奪われてしまうようだ。じっと静かに見つめる人。写真を撮る人。声に出さずともその場にいる全員が同じ気持ちを抱いていることだろう。夕日が人々を包み込み仕事や学校の疲れを癒していく。こんな景色を見ることができる新座駅の周りには、高層ビルが少なく、かつ高架化された駅であるため、広がる空がより大きく感じられる。これが夕日を綺麗に見ることができる理由だ。多くの駅は駅直結の百貨店などを有しておりホームから空が綺麗に見えることはない。しかし、新座駅のホームからは空と地平線を見ることができる。夕日が地平線に沈むにつれ、その光が次第に赤みを帯び、やがて深い紫色へと変わっていく。駅のベンチに腰掛けて、その光景を眺める。帰宅方面の列車がやってくる。時間の流れと共に変化するグラデーションをずっと見ていたいと思う気持ちと、早く家に帰りたいという気持ちが私の中で喧嘩している。ただ、私の体はベンチから動かない。どうやら前者の気持ちが私の中で勝利したようだ。オレンジ色に輝く列車を1本見送る。しかし時間は残酷だ。帰る時が来てしまった。後続の列車に乗り込む。バスに乗った時とは裏腹に、私の足取りは少し重かった。この時間は明日への活力を与えてくれるひとときである。初めて新座駅で夕日を見た時から、再び見ることができる日を楽しみにしている。毎日授業が4限で終わるわけではないし、雨や曇りで太陽が見えない日もある。もう少しで沈み出すのにホームに電車がすぐに来てしまう日もある。すべてのタイミングがぴたりと歯車のようにはまった時だけ見ることができる夕日である。いつも見ることができるわけでないため、見ることができた時により幸せを感じるのだ。そんなことを考えながら列車に揺られているうちに空はどんどん暗くなり、宝石のような星や水晶のような月と共に夜を彩る準備を着々と進めていた。本当にあっという間だった。もしあなたが、新座駅を訪れる機会があるならぜひ夕方の時間を狙ってみてほしい。その美しい夕日を眺めながら、日常の疲れが癒されていく瞬間を体験してほしい。新座駅で見た夕日は、あなたにもきっと忘れられないものとなるだろう。