『生涯をともにしたい街』

立教大学観光学部観光学科 3年
大沼 夏花

 

 将来もこの街に住みたい。新座市に引っ越してきて3年がたった今の私の正直な気持ちである。福島県の田舎で生まれ育った私は遊ぶ場所もなく、コンビニすら楽に行くことができない自分の街の不便さに飽き飽きして、大学生になったら絶対に上京するんだという強い気持ちから今の大学に入学した。都内のキャンパスでのキラキラした大学生活を思い描いていたが、私が合格した学部は埼玉県新座市という聞いたことのない街にあるキャンパスであった。都内の大学に通うのが夢だったのに、また田舎に逆戻りかという気持ちと共に新座市はどのような場所なのだろうと興味も沸いていた。私はキャンパスから近い新座市の大和田地区のアパートに住むことになり、新生活に対する不安を感じつつも新座のあたたかい風に背中を押されながら毎日大学に通っていた。
そんなある日の大学からの帰り道、家の近くに小さな八百屋を見つけた。中に入って八百屋のおじさんに「いらっしゃい!」と声をかけられた瞬間、ふと地元を思い出して懐かしい気持ちになった。八百屋のおじさんのにこっとした笑顔に安心感を覚えて、その日から近所の八百屋によく訪ねるようになった。今では八百屋のおじさんともすっかり仲が深まり、何かを買うとおまけしてくれたり、店に入らなくても私を見かけると声をかけてくれるようになった。大学生活やアルバイトなどの新しい環境や人間関係に疲れてしまったときはいつもおじさんに会いに八百屋へ行くようになった。近所の八百屋のおじさんとの出会いから私の住む大和田地区を中心に、より新座市に目を向けるようになった。新座市の観光スポットや有名な場所も知りたいと思い調べてみると、家からとても近いところに「大和田氷川神社」という神社があることを知った。考えてみると、上京してから久しく神社に行っていなかったので良い機会だと思い、散歩がてら大和田氷川神社に行ってみることにした。神社に到着して、慎ましく佇むその姿を目にしたとき私自身が神社に吸い込まれそうな空気を感じた。神社の前の鳥居にあたたかく迎い入れられ、風に吹かれる木の葉のざわざわとした音も私を歓迎しているようだった。参道を抜けて、御社殿を目の前にすると不思議と心が軽くなり、一気に肩の力が抜けた気がした。ずっとここにいたいと思えるほど心が落ち着いていた。その瞬間、私はふと自分の素直な気持ちに気づいた。いや、この神社が気づかせてくれたのだ。上京して家族と離れ、一人で暮らすことの寂しさに目をつぶって強がっていた私の心の内を見透かされているかのような感覚だった。木の葉の間から差し込む夕日の光が私の背中を照らしているのが分かり、ほのかな温かみとともに私を励ましているように感じた。その帰り道、私は新座市に住むさまざまな人々を目にした。話しながら散歩する親子や、犬の散歩をする夫婦、学校から自転車で家に帰る中学生、家の前で近所の人と楽しそうに会話をするお年寄りなど幅広い年齢の人々がそれぞれの生活を充実させているように思えた。私もこのような街で子供を育てて、のどかな老後を過ごせたらどんなに幸せなのだろうか。私の思い描く「将来の幸せ」の形が頭の中に鮮明に浮かんだ。
上京してこの街に暮らしてから3年目。辛い時期も楽しい時期も全部この街で乗り越えてきた。日常生活で思い悩んだときはこの街が私を優しく包み込んでくれたような気がする。この街の人だけでなく新しい場所との出会いも私にとって大きな財産となった。入学当初は少し悔やんでいたが、今では新座キャンパスに通っていることを誇りに思う。そうでなかったらこの街と出会うことはなかったのだ。初めて暮らす場所なのにどこか懐かしい気持ちにさせてくれるあたたかいこの街に、私はこの先もずっと住み続けるだろう。