『1人になりたい僕と。』

立教大学 観光学部観光学科 2年
白水 翔

 

 1人になりたい時がある。喧騒に包まれ活気にあふれたキャンパスは、楽しい気持ちになる反面、その明るさと活気に追いついかないといけない気がして、なんとも言えない疲れも感じさせる。だから、僕はたまに授業をサボって大学の小さなキャンパスを飛び出すのだ。
 レンタルサイクルを借りる。鍵を開けてサドルにまたがる。ペダルを踏み込む。チェーンが回る。また、ペダルを踏み込む。自転車はスピードを得て、軽快に進み始める。
 ビュウと風を感じる。きもちい。僕はその風を切る。街は静かだ。風の音のほかには、ほとんど何も聞こえない。なんだか眠たくなってくる。埼玉県の最南端、東京からは電車ですぐ。人口16万の街、新座は今日も穏やかな空気に包まれている。
 学校から15分ほど自転車を走らせると、なにやらザワメキが聞こえてきた。
「ザワザワ…ザワ…」
周りには誰もいないのだが−−−−−−−−−−。
 ザワザワ…。ザワザワ…。怪訝に思いながら進んでみると、そこは林だった。ざわめきは、木たちのざわめきだったのだ。鬱蒼とした木々が林立している。こんな場所が新座にあったのか。にしてもなんの林なのだろうと思うと、近くの信号に「平林寺」と書いてあるのが見えた。鬱蒼とした林はお寺の一部だったのだ。にしてもデカい。うんと遠くを見通しても、この塀の端は見えそうもない。木々の剪定が大変そうだななんて思っていると、近くの門があいていたので、とりあえず入ってみることにした。
 一歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。なんだがピンと張り詰めているのだ。えも言われぬ緊張感が漂っていて、まるで私語を許さない体育会系教師のような、圧力のようなものを感じた。あ、別に私語できそうでも話す相手は−−−−−−−−−−。
 境内は本当に静かだ。お坊さん、みんなして昼寝でもしているのかな。今日暖かいもんね−−−−−なんてことを考えながら、ぼうっと歩く。僕が寝そうだ。立ったまま寝落ちして、慣性の法則で辛うじて歩いている、みたいな状況になりかねない。本当に心地いい。時間の流れなんてものはこの境内に存在せず、ひたすら何も考えずに過ごしてしまう。
 調べると、この平林寺は禅の修行を行っているのだそうだ。禅をやる空間だから、究極に静かなのだ。お坊さんが寝坊したわけではないらしい。
 ただ歩く。ぼーっとする。物思いにふけりさえせず、ただ無心でフラァ〜と歩く。贅沢な時間の使い方。完全なる情報デトックス。
 最近、ずっと情報に囲まれている。暇があればスマホで情報を取り込み、耳からもたくさんの情報が入ってくる。世の中はいつだって情報に溢れていて、僕の脳はパンク寸前だ。寸前どころか、もうパンクしているのか。だからキャンパスから逃げ出したのだ。でも、僕は平林寺の静かな情報0の環境で、珍しく落ち着いて、精神の均衡を保っている。1人になりたい僕は、ここに来ている。