『鳥のさえずりに思い馳せて』

跡見学園女子大学 観光コミュニティ学部観光デザイン学科 2年
荻野 里桜

 

 7月の下旬、地元越谷から約1時間車に揺られ、私と家族は新座にある親戚の家を訪れていた。が、現在の世間の現状もあり、親戚みんなでどこかへ出掛けることもできず皆家で各々暇を潰していた。在学中の大学も同市内にあるにも関わらず、私は新座の名所を知らない。折角高層マンションや排気ガスにまみれた街を抜けて緑多い街にやってきたのに部屋に篭りっきりだなんて耐えられず、それなら一人で新座の名所を訪れてみようと、私は外へ飛び出した。

 二十四節気でいう大暑にあたるこの時期、その名にふさわしい激しい暑さが扉の外で待ち構えていた。アスファルト製の道路はゆらゆら揺れて今にも湯気を吹き出しそうだ。早くも家の外に出ることを後悔しそうになるが覚悟を決めて歩みを進める。日焼け止めはもちろん、日傘にアームカバーにと日焼け・暑さ対策には念を入れたが、それでも燦々と降り注ぐ日光に肌がジリついた。目的地は新座市の中でも特に緑の多そうな野火止緑地総合公園。スマートフォン上の地図に記された通りに足を進めておおよそ15分、新座市役所の向かいに目的の場所が見え、あれ、なんだか思っていた以上に緑色。公園を取り囲む柵からはみ出すほど木々は生い茂り、まるでそこだけ山から切り取ってきたみたいだ。その薄暗い雰囲気に一抹の不安を感じつつも、勇気を出して入り口へと向かう。

 木々に囲まれた公園内はアスファルトの上よりも幾分も涼しく感じられた。そして丁度いい間隔で木漏れ日が降り注ぎ、外から見て感じていたよりも園内は明るく、ほっと胸を撫で下ろした。四方八方を緑に囲われ、木々の隙間からはそよ風が流れてくる。地元ではなかなか経験できない感覚に感動を覚えた。木製の橋を渡って園内を散策したり、散歩中の犬と戯れたり思い思いに過ごしたあと、少し休憩をとベンチに腰を掛ける。耳を澄ますと鳥たちの囀りが耳の奥へと響いてきた。さすが野鳥の森というだけあって、聞こえてくる声は多種多様だ。鳥たちの話し声を聞きながらふと、自身の大学生活を振り返る。

 感染症の拡大防止のため、私たちは学校に通わず画面越しで授業を受けることを余儀なくされている。こんな状況でなければきっと今頃、ここにいる鳥たちのように、マスクを介すことなく新しくできた友人たちと会話を楽しんでいたことだろう。そうしたら今日出会ったこの素敵な場所、この感動をみんなと共有できたし、もっとたくさんの新座の素敵な場所を知ることができたかもしれない。3年生に進級したら私たちのキャンパスは新座から都内へと移動する。あぁ、私たちは新座の良いところ何も知らないまま、思い出もないままこの地を後にするんだ。早く都内のキャンパス行きたいと、ずっとそう思ってきたはずなのになんだか急に寂しく感じた。あと半年の間でこの思いは実現できるだろうか、そんな思いを胸に私は公園をあとにした。