『野火止用水緑道とウェルビーイング』

立教大学 観光学部交流文化学科 2年
柿崎 杏莉朱

 

 

 

 春は桜。名所と言われるだけあり、見上げれば青い空と澄んだ空気に覆いかぶさる満開の桜。下を見れば、芽吹き始めた小さく、しかし春の喜びにあふれた草花。

 夏はひまわり。目の前、両端、一面のひまわり畑は、私たちをどこか懐かしい気分にさせる。

 秋は落ち葉。無造作に生える木々を抜けながら、サクッ、サクッ、サクッ、サクッ。落ち葉はおもちゃだった子どもの頃を思い出す。

 冬は雪道。裸の木々と雪と空と私。シンプルな世界で今ここにあるものに気づく。ほら、小さなつぼみを見つけたら、また新しい春の予感。

 ここ埼玉県新座市にある野火止用水は、承応4年(1655)、関東ローム層の乾燥した台地のため生活用水に難渋していた野火止の地に開削された。川越藩主であった松平伊豆守信綱(まつだいらいずのかみのぶつな)が家臣の安松金右衛門(やすまつきんえもん)に命じて玉川上水(東京都小平市)から分水し、大切な飲料水として、または田用水として活用された。全長約24㎞にもなり、現在は遊歩道が整備された、武蔵野の歴史と自然を楽しめる貴重な憩いの場として、多くの市民やハイカーに親しまれている。

 きれいに整備された遊歩道を歩きはじめると、太陽の光でテカテカ輝く野菜たちがちょこんと座っている。野菜の無人販売だ。おいしくて安いため、人気でいつでもいるとは限らないので注意だ。小さなせせらぎの涼しげな音が聞こえてきたら、そこのベンチに座ってみるといい。普段のデスクワークで凝り固まった足がぽかぽかとあたたかくなり、身体が喜んでいるのを感じることができるだろう。木立は優しく包み込んでくれる魔法のテントみたいである。目を閉じれば何が聴こえるだろう。野鳥たちのさえずりだ。市鳥のコゲラの鳴き声がわかったら、もう野火止緑道博士だ。では、目を開けてみよう。小川に小魚やザリガニ、夜にはホタルが見えたら、あなたはもう仕事や勉強なんて忘れて「いま」を楽しんでいるはず。だんだんと未舗装の道へ。やっぱり森林浴は晴れだよな、なんて思わなくても大丈夫。雨のしずくは緑の香りを引き立て、世界をキラキラさせてくれる。帰り道をたどりながらきっとこう感じられる。「今日の私は私だったな」。気張らず、神経質にもならず、見えもはらず、でもしあわせで、ありのままで、満たされている。どんな季節でもどんな天気でもどんなあなたでも、この緑道を歩いてみればそんなふうに思わせてくれる。