選考委員 市内3大学の先生方からの総評
跡見学園女子大学
観光コミュニティ学部観光デザイン学科教授 臺 純子 先生
平成29年度にスタートし、参加大学が3大学になり、さらにそれぞれの大学の学生が、学生運営事務局として、作品選考や取りまとめに関わるなど、年々、進化し続けている「トラベルライティングアワード新座賞」プロジェクトに、今年度から、跡見学園女子大学の窓口教員として参加させていただきました。
令和2年度から続くコロナ禍の中、安易に「現地取材」を勧めることもためらわれる中、応募作品は、新座市のさまざまな魅力を探し、自分なりに表現しようとしており、「頼もしさ」を感じさせてくれるものばかりでした。
雑誌の旅行記事企画・取材・編集・ライターとして20年ほど仕事をしたあと、大学院で、観光を学び、大学教員になった私にとって、新座市の魅力を、活字にまとめるというこのプロジェクトは、懐かしさがある反面、インターネット時代の申し子である学生さんたちが、何を発見し、どのように文章表現するのか、を知ることができる、よい機会となりました。
選考において軸としたことは、コロナの影響に振り回されない視点を持っているかどうか、でした。コロナの影響は、今を生きる世界中の人々が受けている、いわば共通項です。コロナによる影響に囚われ過ぎず、他者は、その対象をどう見るか、感じるか、をイメージしながら、そのうえで、自分の体験や感じたことを素直に書いているか、に着目したつもりです。つまり自らを客観視しつつ、主観を丁寧に表現しているか、を選考基準としたのですが、バランスがとれた作品が多く、うれしい選考体験でした。
客観性を重要視する大学の課題レポートなどとは異なるタイプの文章表現ですので、戸惑った方もいるかもしれませんが、観光は、理屈ではありません。かといって、想いだけでは観光振興はできません。その意味で、このプロジェクトに参加し、文章をまとめた体験が、観光に限らず、多くの分野をより広く、深く学ぶきっかけになることを期待しています。
十文字学園女子大学
教育人文学部文芸文化学科教授 小林 実 先生
昨年度に引き続きコロナ禍での開催となった新座賞ですが、もはや私たちの日常ではコロナ禍が常態となってしまった感がありつつ、しかし上手く折り合いをつけるにはいたっていないために気が付けばストレスをため込んでしまっている、そんな様子がどの入賞作品からもうかがえます。共通して見えてくるキーワードは、「スマホ」と「コロナ」でしょうか。
大学の授業もオンラインでの参加が続き、思うように登校できない学生のみなさんが生活のリズムを崩していく。それに抗うように部屋を飛び出して、新座の町並みを散策した成果がここにあります。
新座市が観光資源として保全する雑木林は、ひとが植えて手入れするいわゆる「二次自然second nature」ですが、そこを直接訪れ、風土と生態系とひとの痕跡にふれて心癒されたことが綴られる営みは、単なるトラベルライティングの枠を超えて、ひとと環境を包括するいわゆる「環境文学」にまで発展した感があります。そんな風にまとまったのが、今年度の新座賞の特色です。
立教大学
観光学部兼任講師 抜井 ゆかり 先生
前年に引き続き新型コロナウイルス禍でありながら、本年度も本学から400作以上の作品をエントリーできたことは有難いことでもありました。
一方、学生生活はオンライン授業が長引くなど多大な影響を受け、それらが学生に与える影響の大きさが文章上からも伝わってくる作品が多く見受けられました。一人ひとりが孤独を抱えた学生生活の中だからこそ、そこから少しだけ時空を超えた新座の旅や街歩きが、学生たちの救いになった部分もあったように思います。
またそれは、単純に「きれい」「楽しい」「面白い」という感想ではなく、沢の清流やその水音、寺院の紅葉やその色彩などを五感で受け止め、それぞれの心身に深く沁み込ませた上で、各自のフィルターを通して独自の視点でトラベルライティングに昇華できた作品が受賞作となっています。
読者の方々にそれらの想いを感じて頂き、実際に足を運んでみたいと思っていただければ本望です。