選考委員 市内3大学の先生方からの総評

跡見学園女子大学
観光コミュニティ学部観光デザイン学科教授  臺 純子 先生

 トラベルライティングに限らないかもしれませんが、どこかに出かけた際に見聞きしたこと、体験したこと、印象に残ったことを、文章にまとめようとするとき、それぞれの場面をどのような順番で構成するか、またその場面が読み手の脳裏に視覚的に共有されるような表現や言葉遣いになっているか、がポイントになるような気がします。時間の経過通りに書き進める場合もあれば、「今」から「過去」に遡る場合もあるでしょう。旅先で、町の人と交わした何気ない会話を挿し込むことでライブ感を表現できるかもしれません。このあたりが、報告書などとは異なる作品としての醍醐味であり、雑誌記事の仕事をしてきた中で、私は、トラベルライティングは短編映画かCMを撮影制作するような準備や工夫をしつつ、それをすべて文字で表現するメディアと考えてきました。
 写真や映像、音声などを用いず、文字だけで映像制作に近い作業を行うとき、オノマトペは、とても有効で、色や音、触感など、人が五感で受け止めたものを、文字で表現できる大切な手法です。しかし、オノマトペも使い過ぎれば、あるいは、手垢のついたオノマトペ表現に頼り過ぎれば、筆者が感じた、その場所の情景や周囲の雰囲気、そのときの心情の動きなどが、定型的な表現に押し込められ、結果として小さくまとまってしまうことになります。
 今回の審査に当たって、トラベルライティングアワード新座賞の初期からの入賞作品を読み返してみました。年々、構成や表現の工夫のレベルが高くなってきていると感じる一方、対象や構成が類似したものになっているような、そしてオノマトペに頼り過ぎている部分が見受けられるような気がします。
 今回の入賞作品は、構成や表現において、バランスよくまとめられたものが選ばれていますが、今後に向けては、読者が想像もつかないような視点で「新座」の魅力が発掘・発見されたダイナミックな作品に出会えることを期待しています。

 

十文字学園女子大学
教育人文学部文芸文化学科教授  小林 実 先生

 今年は新座市内観光定番の平林寺と妙音沢に対象が集中したため、その分、競合する厳しさがあったかと思います。審査する側としては、各候補作品の工夫を比較する楽しさにあふれていましたが。
 審査しながら気づいたことがあります。規定の性格上、どこに行ったかを書くことがメインになるかと思いますが、「旅」ということを考えると、場所だけでなく、移動することの情報も大事になるでしょう。そうした観点で候補作品を読みかえしてみると、ふだん地域の大学生が、どのようにして新座市内を移動しているのか、あるいは平林寺や妙音沢まで、どうやって出向くのかがみえてきます。大学生の場合、自家用車よりも、公共交通機関や徒歩による移動が多いかと思います。中には自転車に乗る人もいるでしょう。いずれにしても、どんな移動手段を用いるかで、みえる景色はかわってきます。
 今回の入賞10作品それぞれに、移動手段に応じた景色のバリエーションが垣間みえました。授業との関連で、季節は夏か秋に集中しますが、季節感とともに、移動のスピード感にともなう景色のさまざまを楽しませていただきました。

 

立教大学
観光学部兼任講師 抜井 ゆかり 先生

 今年度は新型コロナウイルス流行下での生活も3年目となり、様々な制限が緩和され、外出も無理なく行えるようになった年となりました。その状況を反映し、「トラベルライティング」を執筆するために、市内の様々な場所に足を運んだ学生も多く見られ、今年度の作品は自然のなかの開放感に触れた作品が多かったように思います。暮らしに近い場所でありながら豊かな自然が残り、開放的な気分を味わうのに、新座市が適している証左とも言えるでしょう。
 また、前年度までの籠もった生活の反動からか、自らの感覚器を存分に開いて、ありのままの自然を感受し、それらを独自の表現で伝えようとする意欲作も多く見受けられました。その点においても、読者の方々にそれぞれの作品の表現を味わってもらえると有難いと思います。
 一方、近年自治体では、在住している「定住人口」、観光などで訪れる「交流人口」のほかに、通勤、通学などなんらかの関わりを持つ「関係人口」について、地域との関わりへの想いが強い地域外の人材として注目が集まっております。新座市には大学が3大学あり、これらの関係人口が多い市でもありますが、これらの人々との関係を構築していくためにも、「トラベルライティングアワード」が一助となり、学生がより新座市に愛着を持つことに寄与できればという想いを抱いております。